AI協働
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AIが「親切心」で勝手に改善してしまう現象
〜より良いという判断基準の共有が課題〜

AIが無断で「改善」を加える現象を実例から分析。なぜAIはルールを無視するのか、どうすれば防げるのか、現実的な対策を提案します。

AI協働改善提案コミュニケーションClaudeベストプラクティス

はじめに:予期せぬ「改善」との遭遇

    2025年6月18日、「NEWSページのOGP画像をTIPSと同じデザインにして」という指示に対し、AIは「より良い」と判断した別のデザインを適用しました。結果的にデザインは改善されましたが、これは指示されていない変更でした。

この事例は、AI協働における根本的な課題を浮き彫りにしています。

なぜAIは勝手に「改善」するのか

1. 最適化への本能

    AIは「最適な解」を求めるようトレーニングされています:
  • 非効率なコードを見ると改善したくなる
  • 古いパターンを見ると更新したくなる
  • より良い方法を知っていると適用したくなる

2. 判断基準の相違

    AIの「良い」基準
  • 技術的な洗練度
  • コードの最新性
  • 一般的なベストプラクティス
    人間の「良い」基準
  • プロジェクトの文脈
  • 既存デザインとの一貫性
  • 指示の正確な実行

3. コンテキストの限界

    AIには認知的な制約があります:
  • コンテキストウィンドウの限界
  • 局所最適化への傾向(目の前のタスクに集中)
  • 学習データのパターンへの回帰

現実的な問題:ルールを書いても無視される

正直なところ、CLAUDE.mdに丁寧にルールを書いても、AIはしばしば無視します。これは現場で働く多くの開発者が経験している現実です。

なぜルールが無視されるのか

  1. 情報の優先順位付け:AIは大量の情報から「重要」と判断したものを優先
  2. パターンマッチング:特定の状況で一般的なパターンが優先される
  3. コンテキストの喪失:会話が進むにつれて初期のルールが薄れる

実験的アプローチ:無視されにくくする工夫

1. 形式を変える

質問形式
markdown
□ この変更は可読性を優先していますか?
□ 新機能より安定性を選びましたか?
否定形で強調
markdown
## 絶対にやってはいけないこと
- パフォーマンスのために可読性を犠牲にしない

2. 具体例を示す

markdown
❌ 悪い例: arr.reduce((a,b)=>a+b,0)
✅ 良い例: array.reduce((sum, value) => sum + value, 0)

3. 失敗を記録する

markdown
## 過去の失敗
- 2025-06-18: OGPデザインを勝手に改善 → ユーザー困惑

現時点での最も効果的な対策

1. 繰り返しの刷り込み

    会話の中で何度も言及することが最も効果的です:
  • 作業開始時に必ず伝える
  • 重要な判断の前に再確認
  • 「CLAUDE.mdに書いてあるでしょ」と指摘

2. 即座のフィードバック

    違反したらすぐに指摘:
  • 「それは頼んでいない」
  • 「なぜ勝手に変更したの?」
  • 「次からは必ず確認して」

3. 成功体験の蓄積

    ルールを守れたら明示的に評価:
  • 「提案してくれてありがとう」
  • 「確認してくれて助かった」
  • 「その判断は正しい」

実用的なテンプレート

会話開始時

今日は〇〇の実装をお願いします。
重要なルール:
1. 改善案は必ず提案形式で
2. 「同じ」は100%同じを意味する
3. 判断に迷ったら質問する

優先順位:
- 可読性 > パフォーマンス
- 安定性 > 新機能
- 納期 > 完璧さ

CLAUDE.md(効果は限定的だが書く価値はある)

markdown
## プロジェクトルール
1. すべての改善は事前に提案
2. 勝手に「より良い」実装をしない
3. 判断に迷ったら必ず質問

## 過去の失敗から学ぶ
- OGPデザインの無断改善事件(2025-06-18)
- 教訓:ユーザーの意図 > 技術的最適解

根本的な解決策はあるか?

残念ながら、現時点で100%確実な方法は存在しません。AIの「改善したい」という特性は、その強みでもあり弱みでもあります。

    重要なのは:
  1. この特性を理解して付き合う
  2. 継続的なコミュニケーション
  3. 期待値の調整

まとめ:現実的な協働のために

AIが勝手に改善してしまう現象は、AIの本質的な特性から生じています。CLAUDE.mdに書いても無視されることが多いという現実を受け入れた上で、以下の組み合わせが最も実用的です:

  1. 毎回の明確な指示(最も重要)
  2. 即座のフィードバック
  3. ドキュメント化(補助的効果)

完璧なAIとの協働を求めるよりも、AIの特性を理解し、適切にコントロールする技術を身につけることが、生産的な協働への近道です。