AI協働
8 分
AIとの視覚的コミュニケーションギャップを埋める実践的ノウハウ
「見る」能力を持たないAIとデザイン調整を行う際の課題と、効率的なコミュニケーション方法を実例を交えて解説します。
AI協働コミュニケーションUI/UXデザイン調整開発効率
「行間が広すぎる」—— 人間なら一目でわかるこの問題を、AIに伝えるのに何度もやり取りが必要だった経験はありませんか?
実際の開発現場で起きた「文字サイズと行間調整」のケースを通じて、AIとの視覚的コミュニケーションギャップを効率的に埋める方法を探ります。
実際に起きた問題
ケース:文字サイズと行間の調整
人間:「全体的に字が小さいんだ」
AI:[文字サイズを18pxから24pxに変更]
人間:「字をデカくしなくていいところまででかくなった!」
AI:[全体的にサイズを調整]
人間:「詳細ページの字間があきすぎ」
AI:[letter-spacingを調整]
人間:「字間じゃない!行間だ!」
AI:[line-heightを調整] ← ここで「字間」という用語の使い方を確認すべきだった
人間:「モバイル以外ではだめだ」
AI:[レスポンシブ対応を追加]
このやり取りで、本来なら5分で終わる調整に30分以上かかってしまいました。人間側の用語の誤用(「字間」と「行間」の混同)をAIが適切に確認できれば、より早く解決できたはずです。
なぜこのようなギャップが生まれるのか
1. AIには「見る」能力がない
- AIは以下のような視覚的判断ができません:
- デザインの全体的なバランス
- 要素間の視覚的な関係性
- 文化的・慣習的な「違和感」
- デバイスサイズによる見え方の違い
2. 用語の混同とAIの確認不足
- 人間も間違えることがあります。今回のケースでは:
- 人間:「字間」と言ったが、実際は「行間」を意味していた
- AI:言葉通りに
letter-spacing
を調整した
AI:「字間(letter-spacing)を調整しますが、
もしかして行間(line-height)のことでしょうか?
複数行のテキストの縦の間隔なら行間です」
このような確認があれば、より早く解決できたでしょう。
3. コンテキストの欠如
- AIは画面全体を見ていないため:
- 部分的な修正が全体に与える影響を予測できない
- デスクトップとモバイルの違いを想定できない
- 日本語と英語でのレイアウトの違いを考慮できない
効率的なコミュニケーション方法
1. 具体的な数値や条件を含める
markdown
❌ 悪い例:
「行間が広すぎる」
✅ 良い例:
「ニュース詳細ページのタイトル(h1)の行間が、
デスクトップ表示で広すぎる。
現在1.5くらいに見えるが、1.2程度にしたい」
2. 比較対象を明示する
markdown
❌ 悪い例:
「文字が小さい」
✅ 良い例:
「本文の文字サイズが小さい。
現在16pxだが、18px程度が読みやすい。
見出しは現状維持で良い」
3. デバイスとコンテキストを指定
markdown
❌ 悪い例:
「レイアウトがおかしい」
✅ 良い例:
「iPadの横向き(1024px)で見たとき、
サイドバーが本文に被っている」
4. スクリーンショットの活用
現在のAI(Claude)はスクリーンショットを見ることができます:
markdown
「この画像の赤枠部分の余白が大きすぎる。
半分程度にしたい」
[スクリーンショット添付]
実践的なテンプレート
デザイン調整依頼テンプレート
markdown
【対象】
- ページ/コンポーネント:
- 要素:
- デバイス: □ モバイル □ タブレット □ デスクトップ
【現状】
- 現在の値/状態:
- 問題点:
【希望】
- 変更後の値/状態:
- 参考:
【補足】
- 影響範囲:
- 優先度:
具体例
markdown
【対象】
- ページ: ニュース詳細ページ
- 要素: 記事タイトル(h1)
- デバイス: ☑ デスクトップ
【現状】
- 現在の値: line-height: 1.5
- 問題点: 2行以上になったときに行間が広すぎる
【希望】
- 変更後: line-height: 1.2
- 参考: Mediumの記事タイトルくらいの密度
【補足】
- モバイルは現状維持
- 日本語の長いタイトルで特に目立つ
AIの進化と将来
現在のAIの視覚能力
- 2024年現在:
- 静止画の認識は可能
- リアルタイムの画面確認は不可
- デザインの「感覚的」判断は困難
将来の可能性
- 画面共有によるリアルタイム調整
- デザインシステムとの統合
- 視覚的なA/Bテスト自動化
ベストプラクティス
1. 段階的なアプローチ
markdown
1. まず大まかな問題を伝える
2. AIの対応を確認
3. 具体的な調整を指示
4. 必要に応じて微調整
2. 命名規則の統一
markdown
プロジェクト内で用語を統一:
- 字間 → letter-spacing
- 行間 → line-height
- 余白 → margin(外側)/ padding(内側)
3. デザイントークンの活用
css
/* デザイントークンで管理 */
:root {
--spacing-xs: 0.5rem;
--spacing-sm: 1rem;
--spacing-md: 1.5rem;
--line-height-tight: 1.2;
--line-height-normal: 1.5;
--line-height-loose: 1.8;
}
チェックリスト
AIにデザイン調整を依頼する前に:
- [ ] 対象の要素を明確に特定したか
- [ ] 現在の値を確認したか
- [ ] 希望する値を具体的に決めたか
- [ ] デバイスサイズを指定したか
- [ ] 影響範囲を考慮したか
- [ ] スクリーンショットを用意したか(可能なら)
まとめ
AIとの視覚的コミュニケーションギャップは確かに存在しますが、適切な伝え方を身につけることで、このギャップは大幅に縮小できます。
- 重要なのは:
- 具体性 - 曖昧な表現を避ける
- 文脈 - 状況と条件を明確にする
- 段階的アプローチ - 一度にすべてを解決しようとしない
これらのノウハウは、AIの視覚能力が向上しても有用であり続けるでしょう。なぜなら、明確なコミュニケーションは、相手がAIであろうと人間であろうと、効率的な協働の基盤となるからです。