AI協働
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AIとの視覚的コミュニケーションギャップを埋める実践的ノウハウ

「見る」能力を持たないAIとデザイン調整を行う際の課題と、効率的なコミュニケーション方法を実例を交えて解説します。

AI協働コミュニケーションUI/UXデザイン調整開発効率

「行間が広すぎる」—— 人間なら一目でわかるこの問題を、AIに伝えるのに何度もやり取りが必要だった経験はありませんか?

実際の開発現場で起きた「文字サイズと行間調整」のケースを通じて、AIとの視覚的コミュニケーションギャップを効率的に埋める方法を探ります。

実際に起きた問題

ケース:文字サイズと行間の調整

人間:「全体的に字が小さいんだ」
AI:[文字サイズを18pxから24pxに変更]
人間:「字をデカくしなくていいところまででかくなった!」
AI:[全体的にサイズを調整]
人間:「詳細ページの字間があきすぎ」
AI:[letter-spacingを調整]
人間:「字間じゃない!行間だ!」
AI:[line-heightを調整] ← ここで「字間」という用語の使い方を確認すべきだった
人間:「モバイル以外ではだめだ」
AI:[レスポンシブ対応を追加]

このやり取りで、本来なら5分で終わる調整に30分以上かかってしまいました。人間側の用語の誤用(「字間」と「行間」の混同)をAIが適切に確認できれば、より早く解決できたはずです。

なぜこのようなギャップが生まれるのか

1. AIには「見る」能力がない

    AIは以下のような視覚的判断ができません:
  • デザインの全体的なバランス
  • 要素間の視覚的な関係性
  • 文化的・慣習的な「違和感」
  • デバイスサイズによる見え方の違い

2. 用語の混同とAIの確認不足

    人間も間違えることがあります。今回のケースでは:
  • 人間:「字間」と言ったが、実際は「行間」を意味していた
  • AI:言葉通りにletter-spacingを調整した
AIが改善できた点
AI:「字間(letter-spacing)を調整しますが、
    もしかして行間(line-height)のことでしょうか?
    複数行のテキストの縦の間隔なら行間です」

このような確認があれば、より早く解決できたでしょう。

3. コンテキストの欠如

    AIは画面全体を見ていないため:
  • 部分的な修正が全体に与える影響を予測できない
  • デスクトップとモバイルの違いを想定できない
  • 日本語と英語でのレイアウトの違いを考慮できない

効率的なコミュニケーション方法

1. 具体的な数値や条件を含める

markdown
❌ 悪い例:
「行間が広すぎる」

✅ 良い例:
「ニュース詳細ページのタイトル(h1)の行間が、
デスクトップ表示で広すぎる。
現在1.5くらいに見えるが、1.2程度にしたい」

2. 比較対象を明示する

markdown
❌ 悪い例:
「文字が小さい」

✅ 良い例:
「本文の文字サイズが小さい。
現在16pxだが、18px程度が読みやすい。
見出しは現状維持で良い」

3. デバイスとコンテキストを指定

markdown
❌ 悪い例:
「レイアウトがおかしい」

✅ 良い例:
「iPadの横向き(1024px)で見たとき、
サイドバーが本文に被っている」

4. スクリーンショットの活用

現在のAI(Claude)はスクリーンショットを見ることができます:

markdown
「この画像の赤枠部分の余白が大きすぎる。
半分程度にしたい」
[スクリーンショット添付]

実践的なテンプレート

デザイン調整依頼テンプレート

markdown
【対象】
- ページ/コンポーネント: 
- 要素: 
- デバイス: □ モバイル □ タブレット □ デスクトップ

【現状】
- 現在の値/状態: 
- 問題点: 

【希望】
- 変更後の値/状態: 
- 参考: 

【補足】
- 影響範囲: 
- 優先度:

具体例

markdown
【対象】
- ページ: ニュース詳細ページ
- 要素: 記事タイトル(h1)
- デバイス: ☑ デスクトップ

【現状】
- 現在の値: line-height: 1.5
- 問題点: 2行以上になったときに行間が広すぎる

【希望】
- 変更後: line-height: 1.2
- 参考: Mediumの記事タイトルくらいの密度

【補足】
- モバイルは現状維持
- 日本語の長いタイトルで特に目立つ

AIの進化と将来

現在のAIの視覚能力

    2024年現在:
  • 静止画の認識は可能
  • リアルタイムの画面確認は不可
  • デザインの「感覚的」判断は困難

将来の可能性

  • 画面共有によるリアルタイム調整
  • デザインシステムとの統合
  • 視覚的なA/Bテスト自動化

ベストプラクティス

1. 段階的なアプローチ

markdown
1. まず大まかな問題を伝える
2. AIの対応を確認
3. 具体的な調整を指示
4. 必要に応じて微調整

2. 命名規則の統一

markdown
プロジェクト内で用語を統一:
- 字間 → letter-spacing
- 行間 → line-height
- 余白 → margin(外側)/ padding(内側)

3. デザイントークンの活用

css
/* デザイントークンで管理 */
:root {
  --spacing-xs: 0.5rem;
  --spacing-sm: 1rem;
  --spacing-md: 1.5rem;
  --line-height-tight: 1.2;
  --line-height-normal: 1.5;
  --line-height-loose: 1.8;
}

チェックリスト

AIにデザイン調整を依頼する前に:

  • [ ] 対象の要素を明確に特定したか
  • [ ] 現在の値を確認したか
  • [ ] 希望する値を具体的に決めたか
  • [ ] デバイスサイズを指定したか
  • [ ] 影響範囲を考慮したか
  • [ ] スクリーンショットを用意したか(可能なら)

まとめ

AIとの視覚的コミュニケーションギャップは確かに存在しますが、適切な伝え方を身につけることで、このギャップは大幅に縮小できます。

    重要なのは:
  1. 具体性 - 曖昧な表現を避ける
  2. 文脈 - 状況と条件を明確にする
  3. 段階的アプローチ - 一度にすべてを解決しようとしない

これらのノウハウは、AIの視覚能力が向上しても有用であり続けるでしょう。なぜなら、明確なコミュニケーションは、相手がAIであろうと人間であろうと、効率的な協働の基盤となるからです。